事業承継コラム

売主|個人事業主が事業譲渡した時にかかる税金と税金対策

個人事業主が、M&A(合併・買収)を利用して事業を売却する場合、そこにかかってくる税金は大きな負担になってしまう場合があります。

個人事業主がM&Aを行った際にかかる税金の種類や計算方法について、ご紹介していきます。

事業承継時の税金の種類と計算方法

個人事業主がM&A(合併・買収)を利用して事業を売却する際に、「土地や建物以外の財産(例えば、在庫、機械設備、営業権など)」と「土地と建物」にかけられる税金の計算方法が異なります。

総合課税による税金(所得税・住民税)

個人事業主がM&A(合併・買収)を利用して事業を売却する際に、土地や建物以外の財産(例えば、在庫、機械設備、営業権など)が含まれる場合、これらの財産の譲渡によって生じる所得には、総合課税が適用されます。

総合課税とは、M&Aで得た売却益に加えて、それ以外にも個人が1年間に得たすべての所得を合算して課税される方法です。

総合課税で計算される税金には、所得税、住民税、消費税があります。

総合課税の対象になる所得

総合課税の対象となる所得には、事業売却で得た利益の譲渡所得の他に、給与所得、事業所得、不動産所得、配当所得などが含まれます。

それらの所得から、必要な控除(基礎控除、社会保険料控除、配偶者控除など)を適用した後の金額が、総合課税所得となります。

総合課税の対象になる事業譲渡時の所得項目

項目所得適応制度
棚卸資産(商品、製品、半製品、仕掛品、原材料)事業所得総合課税
減価償却資産(条件あり)事業所得、又は、雑所得総合課税
営業権1譲渡所得総合課税
その他の資産譲渡所得総合課税
  1. 営業権とは、ブランドやノウハウ、従業員のスキルのような無形固定資産のことをいい、譲渡価格から純資産を引いた額が用いられ、前述した「総合課税による税金」と同様の考え方になります。 ↩︎

総合課税で計算される所得税

  • 譲渡価格は、売却した財産の売却金額です。譲渡所得 = 譲渡価格取得費譲渡費用
  • 取得費には、売却した財産の購入価格や製造・開発コストが含まれます。
  • 累進課税率は、課税所得金額によって5%〜45%の開きがあります。

引用:国税庁 No.2260 所得税の税率

総合課税で計算される住民税

  • 所得割は、譲渡所得と譲渡以外で1年のうちに得た所得(給与所得、事業所得など)から必要な控除を引いた価格に10%(※自治体によって前後する)をかけた金額です。
  • 均等割は、居住する市区町村と都道府県によって定められた一律の金額で、所得に関係なくすべての納税者が負担します。大体5,000円前後の金額です。

例)年間所得《400万円》、M&Aの譲渡所得《1,400万円》の場合
1,800万円×所得税(40%)×住民税(10%)=900万円(所得税+住民税)
手元にはおよそ900万円しか残らない計算に。

分離課税による税金

個人事業主がM&A(合併・買収)を利用して事業を売却する際に、土地と建物が含まれる場合、これらの不動産の売却による譲渡所得には分離課税が適用されます。

分離課税とは、その所得が総合課税の対象となる他の所得とは別に計算し、課税される方法です。

譲渡所得税は、土地や建物の譲渡所得に対して適用される税金で、所得税と住民税が含まれます。

譲渡所得税の計算方法

  • 譲渡価格は、土地や建物を売却した際の実際の売却金額です。
  • 取得費は、土地や建物を購入した際のコストや、改良にかかった費用、建物の場合は減価償却を考慮した額などを含みます。
  • 譲渡費用には、売却に際して発生した仲介手数料や広告費などが含まれます。
  • 譲渡所得に対して適用される分離課税の税率は、土地や建物が短期(5年以内)または長期(5年超)保有のどちらであるかによって異なります。短期保有の場合、所得税率は30%、住民税率は9%(合計39%)が一般的です。長期保有の場合、所得税率は15%、住民税率は5%(合計20%)が一般的です。

事業譲渡にかかる消費税

事業譲渡において課税資産が含まれている場合に、消費税は買主が負担するものであり、売主が買主から消費税を徴収し税務署に納付します。

買主側には事業譲渡の際、法人税(法人が買った場合)や、消費税、事業の取得時に掛かるその他の税金(登録免許税、固定資産税、贈与税、相続税、印紙税等)が発生いたします。

これらについては、別のコラムにてご紹介予定です。

事業売却にかかる税金の節約方法

事業の法人化

事業を法人(株式会社や合同会社など)に移行し、法人名義で資産を売却することで、個人所得税よりも一般的に低い法人税率を適用できる場合があります。

法人税の最高税率は個人の所得税率よりも一般的に低く設定されており、特に利益が大きい場合、法人化により低い税率が適用され、税負担を軽減できる可能性があります。

また、法人化を行いオーナー経営者となる事で、事業譲渡の方法を株式譲渡という形に変更する方法があります。

法人化することで、株式の形で事業の所有権を移転することが可能になり、事業承継やM&Aをよりスムーズに行うことができ、税負担の面でも有利な条件を模索しやすくなります。

株式譲渡の場合、所得税は分離課税に

法人の株主としてM&Aを利用して株式を売却する際には、株式譲渡という形式になります。

個人事業主の場合の譲渡所得は総合課税ですが、法人の株主として株式譲渡した場合の譲渡所得は分離課税となります。

引用:国税庁No.1463 株式等を譲渡したときの課税(申告分離課税)

株式譲渡の場合の消費税

株式譲渡の場合、買主に消費税は発生しません。

法人化のデメリット

これら法人化による事業譲渡時のメリットはありますが、法人化する際の開業費用や、赤字でも法人税の負担、社会保険料など、支払う項目が増えるため、個人事業主よりも維持にコストがかかる可能性があります。

事業譲渡する側の個人事業主の状況により、法人化するかどうかは見極める必要があります。

分割払いによる所得の平準化

売却代金を一括で受け取るのではなく、数年に分けて分割払いを受けることで、各年の所得を平準化し、高い税率の適用を避けることができます。

長期保有による税率の違い

個人事業主がM&A(合併・買収)を利用して事業を売却する際に、土地と建物が含まれる場合、土地や建物の保有期間が短期(5年以内)か長期(5年超)で税率が大きく異なってきます。

そのため、売却時期を調整し、低い税率が適応されるようにすることで、税金の節約が可能になります。

  • 短期保有:所得税率は30%、住民税率は9%(合計39%)が一般的。
  • 長期保有:所得税率は15%、住民税率は5%(合計20%)が一般的。

資産の譲渡時期の調整

総合課税による税金(所得税・住民税)は、その年の合計所得に応じて税率が変動します。

所得が少ない年に譲渡することで、低い税率が適用される可能性があります。

他の所得が少ない年や、事業の利益が減少した年などを狙って事業資産を売却することで、高額な税率を免れる事が出来ます。

個人版事業承継税制について

個人版事業承継税制は、青色申告を行っている個人事業主が事業を後継者に承継する際に、その過程で発生する税負担を軽減するための制度です。

この税制は、個人事業主が親族内で事業を引き継ぐ場合に特に有効な税制措置となっていて、個人の事業用資産を贈与や相続により取得した場合に、譲渡に係る贈与税・相続税について、一定の要件を満たせば、納税を猶予や納付が免除される制度です。

ただし、個人版事業承継税制は適用期間が限られた税制で、適用を受けるためには、2024年3月31日までに「個人事業承継計画」を都道府県知事に提出し、確認を受けなければならなかったため、残念ながら現状でこの制度を受ける事は出来ません。

個人事業主が事業譲渡時に注意すべきこと

個人事業主が、M&Aを行う際にかかってくる税金は、M&Aを検討するうえで考慮すべき重要なコストです。

税金の詳細な計算方法や適用される税率は、売却される資産の種類や所得の性質、さらには税法の改正によって変更される可能性があるため、事業売却を計画する際には、専門家のアドバイスやサポートを受けることをお勧めします。

先ずは専門家に相談!

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